Booby trap
コンピュータサイエンス学部の片倉です.
Booby trap [ブービートラップ] を知っていますか? 私がこの言葉と最初に出会ったのは, 多分ベトナム戦争に関連してだったと思います. 南ベトナム解放民族戦線が米軍に対して使った戦術の一つとしてです. 戦争などの際に敵に対し仕掛ける落とし穴その他の多様な罠のことで, 至って古典的な戦法でもあります. 今日は, 戦争ではなく通常の仕事の中で, 特に専門家が引っかかり易い Booby trap の一つについて書いてみようと思います. 分野の異なる複数の専門家の共同作業の際に起こりがちなチョットした, そして時には重大な結果をもたらす専門用語に潜む落とし穴についてです.
一般に科学技術の分野では Technical term [専門用語] は, 多少のニュアンスの違いはあるものの大筋で万国共通, 同じ意味を持つと思われています. これが専門用語の最大の利点で, 通常同じ分野の専門家同士では, お互いに多少相手の言葉が苦手でも必要最低限のコミュニケーションは専門用語を知ってさえいれば取れてしまいます. 逆に, これを知らないとその分野の専門家とみなされません. が, 現実はそうと単純に信じてばかりは居られない様でもあります. 政治の世界などでは珍しいことではないのかも知れませんが, 科学技術の分野でも同じ言葉が異なる意味に使用されたり時には全く反対に作用することがあることは, 専門家でも気づいていない人が少なくないように思っています. 念のために断っておきますが, 故意に意味を捻じ曲げたりすることを言っているのではありません.
私が長くかかわって来た空気や水などの流体を取り扱う場合を例に取ると, 「開 (open) 」 と 「閉 (close) 」 がその典型です. 例えば原子力発電所などでは, 冷却水などを流す多くのパイプが絡み合う様に配置された複雑な管路系が利用され, その管路系に配置された弁では, “開” いている時にはそこを水などが流れ “閉” じている時は流れません. ところが電気回路では, スイッチ (開閉器という呼び方があります) が “閉” の場合に回路に電流が流れ “開” の場合には流れません. “開/閉” とその結果である “流れる/流れない” の関係が全く逆転しているのです. 非常に紛らわしいことに, 電気スイッチで弁を操作するシステム (コンピュータ制御が普通の今ではこれがあたりまえ) では, 通常, 停電時の安全性を考えスイッチが “開” の状態 (すなわち電気が切れた時) で弁が “閉” じる (システムが停止する) 様になっています. 流体分野でも “回路” という言葉を用いる場合があり, 尚更です. 事故などの緊急時にあわてて 「そこを開けて!!」 と頼んだとき頼まれた人間のとっさにとる動作は, その人間の日ごろ慣れ親しんでいる分野 [バックグラウンド] や立ち位置によって全く異なる可能性があると言うことです. 自分が普通に使っている言葉の中に 「方言」 とも言うべき自分の周りでだけ通じる言葉が混じっていることに気づかず全て 「標準語」 だと信じていないか, と疑ってかかることも, 危険を回避し日々の安全・安心を実現するために必要だと感じています.
なお, 以上書いた様なことは科学技術の分野に限らず時間的や空間的に異なる複数の分野 (世代間, 地域間, 文化間などなど) が交わるあらゆる場合で普通に起こり得ることだとも思っています. 時には常識 (と思っている事) を疑ってみると, 違う世界やより広い世界が見えて来るかも, です. Booby [まぬけ] 呼ばわりされない為にも...
片倉寛
2009年11月14日 (土)
