東京工科大学 コンピュータサイエンス学部 BLOG

東京工科大学
  • 『エコとツバメと』

« 2010年5月 | トップページ | 2010年7月 »

2010年6月

2010年6月28日 (月)

『エコとツバメと』

2010年6月28日 (月)

昔は、ツバメが来て自分の家に巣を作ると、「幸せがやってくる」、といって縁起が良いものとされたそうです。でも、今では、だんだんツバメの巣を都会で見ることが少なくなりました。
 以前は、あそこの駐車場の入り口と、あそこのスーパーの入り口と、あそこの床屋さんの軒と、とたくさんツバメの巣を数えられましたが、年々、その数は減りました。ツバメの姿を見ることも随分少なくなりました。

 ツバメは、まさにグローバルな一生を送っています。私たち人間が、グローバリズムを唱えるずっとずっと前からです。季節に合わせて、地球上を飛び、ちょうど、日本国土には、五月の頃に、子育てをする場所として飛来してきたからです。

 最近、エコという言葉、これはecologyの略で 「地球にやさしい」などと訳されますが、この言葉を聴かない日はないように頻繁に登場します。でも果たして私たちは、この言葉を本当に尊重するような生活をしているのか、ととっても疑問です。ツバメの巣ですら平気で払い落とし、その残骸をまるで汚いもののようにして捨て去り、そこに小奇麗な場所を作り上げても、そんなものはどれほどの価値があるのだろう、と思うからです。

 私の家のそばに、一軒だけ、今年もツバメの親を待ち、子育てが終わるまで、そっと見守っていたお店がありました。そこは酒屋さんなのですが、毎年5月は、ツバメのために、倉庫のシャッターを下20センチくらいあけっぱなしておきます。ツバメたちは、代替わりをしても、ちゃんと心得たもので、その下20センチくらいの幅まで急降下して、お店が閉まっている時間も、雛たちにえさを運びます。

 雛たちは、シャッターの中で、毎年その新しい命を息吹かせ、そして梅雨のころ巣立っていくのです。

 すぐ近くには、おもちゃ屋さんがあります。でも、このおもちゃ屋さんは、巣があるのを知っていても、平気でシャッターを閉め、そして、巣に入れなくなり呆然とする親鳥のことは全然気にかけませんでした。その次の年からは、もうツバメの姿はみられませんでした。
 「ツバメが巣を作ったら、そこには幸せがくる」、というのは唯の迷信ではないかもしれません。ツバメに、ほんの何週間か軒を提供して、そっと見守る。そういう心を持っている人は、幸せを感じることができる、そういうことなのかもしれません。

 子育てが終わったツバメの親が、電線でじっと疲れをいやしていました。『ご苦労様。来年も、ここの酒屋さんにおいでね』、そう声をかけました。

2010年6月28日 (月)

2010年6月25日 (金)

「実学」って何?

2010年6月25日 (金)

東京工科大学の「基本理念」にも現れている「実学」についてお話しましょう。

日本で最初にこの言葉を唱えたのは福沢諭吉であると言われています。福沢は、「実際に役に立つ学問」と言う単純な意味に誤解されぬように、「実学」の文字の脇に「サウヤンス」とルビをふりました。これは第一には「科学(サイエンス)」のことですが、そこには「虚」ではない学問という意味が込められており、また日常の役に立つ学問、社会で実践される学問、などの意味も含んでいます。

「役に立つことを主眼に置く学問」が実学と見なされることが多く、今日その意味でも流通していますが、福澤は、新しい事物や事柄の表層だけをなぞって実際的な利便だけを追求する学問については、特に語学、工学の勉学における失敗例を挙げながら、こうしたものを軽薄な虚学として退けたのです。

 すなわち、「実学とは自然科学のみならず、社会・人文科学をふくめた実証科学のことであり、事物の真の姿は実証的な学問を通じて分かるという意味です。福澤の実学の精神とは、実証科学に基づいて理解される真理を謙虚に学んで、問題を解決しようとする姿勢といえます(清家慶應義塾大学塾長)。」

「自ら問題を見つけ、その問題を説明しうる仮説を作り、その仮説をきちんと検証し、結論を導くということ。そしてその実証された結論に基づいて問題を解決していくこと。これが実学の精神であり、これこそ、今日の大学院生にとりわけ強く求められていることに他なりません(清家慶應義塾大学塾長)。」

東京工科大学コンピュータサイエンス学部における教育も、この「実学の精神」に基づいています。特に、3年生の後期から少人数で行う研究は、「創成課題」「研究課題Ⅰ」「研究課題Ⅱ」と名づけられ、自ら課題を発掘することから始められます。そして自らその課題を解決する方法を考え、実験やプログラミングによって検証します。単なる知識の取得に終わらず、物事の本質や理念や仕組みを理解した上で、知識を体得できるという特徴があり、社会に出てからも大いに役立つ科目といえるでしょう。

CS学部 CH.

2010年6月25日 (金)

2010年6月17日 (木)

ロボットが好きだから

2010年6月17日 (木)

こんにちは。東京工科大学CS学部の教員@ロボット制御研究室です。

鉄腕アトムって、皆さん知っていますよね。私もアトムを作りたくてこの道に入った一人です。でも、なかなかアトムを作るところまでは至っていません。ロボットを勉強しようと大学に入ったら、ロボットの基本の制御工学という分野にはまってしまいました。たとえば、部屋のなかで、暑かったらエアコンの温度を下げて、寒かったら上げて、自分が快適と思う温度に調節しますね。これをフィードバック制御といいますが、なかなか思い通りになってくれません。

ロボットの腕や足などの関節には1つずつモータが入っています。皆さんの持っている携帯電話にもモータが入っていることを知っていますか? バイブレーションモードとかにしているときに、着信すると携帯電話がブルブルと揺れますよね。あれは、中に入っている小さなモータが回るからです。モータは電池をつなぐと回ります。はずすととまります。でも、希望したところ、例えば腕を90度曲げたところで止めようとしても、簡単にはとまりません。「車は急に止まれない」というように、モータも急には止まりません。ここで活躍するのが「フィードバック制御」です。

写真は、おもちゃのモータを用いたロボット、私はアームロボットと呼んでいます。ちなみにスペースシャトルで活躍しているのは、ロボットアームですね。研究室の学生さんが制御を勉強するためにつくって、コンピュータから動かしています。小さな箱(オレンジ色)を3台のロボットの腕が正確な位置に止めて、次のロボットに順番に渡しています。このような簡単なものを思うように操れると、だんだん複雑なもの、たとえばホンダの2足歩行ロボットのアシモやトヨタのパー^トナーロボット(上海万博ではバイオリンを弾いているそうです)などが動かせるようになります。

いつかは、鉄腕アトムもできるかな?

(研究打ち合わせのために移動中の新幹線の中で書いています。)

Image001

2010年6月17日 (木)

2010年6月14日 (月)

大学の先生は旅行好きが多いかもしれない

2010年6月14日 (月)

黒川です。東京工科大学CS学部の教員です。

先々週の週末は宮古島で自転車のレースに出てきました。宮古島は海を渡る橋が二本かかっていて、それらを含めて島をぐるりと一周すると100kmになります。一日目はそのコースをサイクリングで100km、二日目にまた同じコースで100kmのレースです。サイクリングは基本のんびりで、途中で止まって景色を眺めたり、飲んだり食べたりしながら宮古島を一周します。景色はやっぱり独特で、あの海の色は感動モノで、日常を忘れることの出来る良いイベントでした。

二日目の100kmを走るレースではさすがに止まって飲んだり食ったりはありませんが、私は強い選手では無く完走が目的なのでそんなにすごい走りをするわけではありません。それでも初めくらいは先頭集団に食らいついていこうと頑張ってみたのですが、あまりにも容赦ない先頭集団のスピードは45km/hを超えていて、5kmも持たずにちぎられてしまいました。後から聞くと10kmくらい走った後からスピードも落ち着いてサイクリングペースになったそうなので残念ですがそれが実力なのでしょうがないですね。先頭から遅れた後はマイペースで走っていましたが、自転車でひたすら100kmを走り続けるのは当然シンドイことではあるんですが、とても気持ちよいことでもあって、宮古島ならではの空気感と合わせてレースを満喫してきました。

今回の宮古島の自転車レースは9月にトライアスロンの大会があって、それに向けた自転車の練習という意味合いが強いのですが、こういうリフレッシュがあるとまた日々の仕事を頑張ろうと言う気になってきます。からだにも心にも頭にも休養は大切です。

トライアスロンに出るための準備としては日々のランニングや水泳なんかももちろんですが、減量というのも大きなポイントです。私のホームページの写真は100kg近くあるときの写真なのですが、おかげで今は常に72~73kgくらいの体重になり、メタボ健診にも引っかからない体型になりました。トライアスロンの大会時にはさらに70kg前後まで絞ります。

自転車やランニングや水泳の練習も減量も全て地道な作業です。1週間で5kg痩せるとか10kg痩せるとかっていう謳い文句を見るとニワカには信じられない一方で、こういうニーズがあるんだと思うと少し不安な気持ちにもなります。本来はゆっくり時間をかけて達成する仕事だと思うのです。

それは大学の勉強も同じです。受験勉強もそうかも知れません。すぐには効果が出ない分、身に付くとその人の強みになり、個性にもなるのです。

で、先週末は父母懇談会で福岡と広島に行ってきました。これはもちろんお仕事。大学は東京にあるので、地方に住んでいる父母との懇談会にはこちらから出向きます。私の研究室にいる学生のご両親ともお話をしてきました。私くらいの年齢(40歳)だと、大学に父母会があるの?とちょっとびっくりする人が多いのですが、やってみると結構有意義なイベントだと思います。そんなに長い時間が取れるわけでもないのですが、ご両親の不安を解消出来ることも多いようですし、直接お話を聞くのはこちらも勉強になります。顔が見えるというのは、なによりも安心するということでしょうか。

福岡でも広島でも夜は美味しいお酒や美味しいものを食べました。観光をする余裕まではありませんでしたが、その土地のものを食べるというのは旅行の楽しみの大きな要素です。日本はどこに行ってもおいしいご飯が食べられるので、国内旅行はとても楽しいのです。研究室にはもみじ饅頭をお土産に買って東京に帰ってきました。

さらに、今週末は学会発表で、再び沖縄に行く予定です。那覇近郊に同じ分野の先生が全国からたくさん集まって自分の研究成果を公に発表します。学会にもよるのですが、私の参加している学会は大学院生の発表が多く見られます。うちの研究室も大学院生が発表と思っていたんですが、準備が間に合わず今回は断念。次回は是非とも発表してもらいたいものです。

ちなみに、今年からうちの大学院は学会発表などの外部発表をしていることが修了の条件になりました。同じような条件は多くの大学院で実質的に導入されていて、学会にもよるんですが、実は学会って大学院生が学んだり経験したりする場という一面もあったりするのです。実際、学生だけが集まる発表会なんかも企画されていたりします。
#そうでない学会もあるそうですが私は参加してないのでよくわかりません。

ちなみに学会は全国各地の研究者が集まる会なので全国各地で開催されます。もちろん国内だけではなく、全世界に研究者はいるので、学会は海外でもあって、国際会議なんて呼ばれたりもします。多くの場合、主催する団体が違ったり使用する言語が英語だったりということで、国内でやる学会とは雰囲気が違います。やはり世界中から研究者が集まるので、ある程度は均一な雰囲気なんですが、それでも開催される国の独特な雰囲気も混じって毎回楽しい雰囲気を味わっています。バンケットと呼ばれるパーティーでは開催地の地元の舞踊なんかが披露されたり、その地域の歴史や文化に触れることができたりすることもあります。たまに最後の方になると参加者が謳ったり踊ったりなんてこともあります。一度、一緒になってみんなで踊っている所を同僚の先生に動画に撮られたことがあるのですが、youtubeやニコニコ動画にアップされないことを願ってやみません。

もちろん学術的な議論というのが会議の一つ目の目的であることは揺るぎませんが、こういうコミュニケーションや文化に触れる機会を与えられるのも国際会議の良い所なんだと思います。

私は年に1~2回しか行きませんが多い人は5~6回か、それ以上参加することもあるようです。国際会議でも、大学院生がたくさん発表しています。15分から20分のプレゼンテーションとその後の質疑応答を英語でこなします。正直、ちょっとカッコ良いかもしれません。モテるかどうかは分かりませんが、親はきっと我が子の成長っぷりを喜んでくれます。高校生の皆さんにとって英語は文系>理系と感じるかも知れませんが、実は理系って英語を使える人(使わざるを得なくなった人かも)が多いのです。

というわけで、6月は3週連続で沖縄、九州、沖縄と西の方に飛行機で出かけるスケジュールなのですが、平日は平日でしっかり授業や仕事もあるので今月の私は体力勝負です。

大学の先生は何かと出張の多い職業だったりもするので、旅行の楽しみ方を知っている人が多いですし、旅先での楽しい経験を始めとして経験豊富な人が多いです。オープンキャンパスなどで大学の先生と話す機会があれば、旅行話でも聞いてみるときっと楽しい話が聞けますよ。ここでは書けないような話も含めて。

私も先週と先々週の旅行は楽しめました。来週の旅行も楽しんでこようと思っています。

2010年6月14日 (月)

2010年6月11日 (金)

茶と香り 「ニオイセンサで嗅ぎわける」

2010年6月11日 (金)

こんには、pukutaです。東京工科大学の教員です。

今日は、私が携わっている研究の関連で、お茶(緑茶)について話させてください。数年にわたって研究室の学生に聞いてみて意外に思ったことは、お茶は若者に地道な人気があるようです。品種にコダワリを持つところまではいかないまでも、お茶は幅広い年齢に親しまれていることを実感しています。私はニオイの研究をしていて、お茶の香りで品種や劣化状態を判断できるセンサの開発に、その一環として取組んでいます。ニオイは様々な気体分子で構成されていますが、その分子の情報を総合的とらえて、人に分かりやすく表現して、生活に利用できるようにする研究を進めています。

茶の木は中国の南部からインド北部にかけての南アジアが原産地とされている、ツバキ科の木です。茶畑の木をみると、ツバキと確かに似ている印象を受けます。茶の木には緑茶に適した中国種・日本種と紅茶にむいたアッサム種とに大別されます。同じ品種であっても、土壌や気候によって生茶(摘み取ったばかりの未加工の葉)の品質は異なり、さらに加工する方法によって製茶された茶葉は千差万別です。

皆さんは、生茶の加工法によって緑茶、紅茶、ウーロン茶などの代表的な茶葉に区別されることをご存知でしょうか。茶の葉には葉緑素を主体とした自分自身を酸化・分解する酵素が備わっていて、この酵素は葉を摘み取った直後から活動して、発酵が始まります。この発酵による変化は、生茶が褐色に変色する様に現れ、発酵させる程度により、緑茶、ウーロン茶、紅茶などと区別されます。緑茶の製造は、摘み取った生茶を蒸気で蒸したり、釜炒りしたりなどの熱処理をかけて酵素を変性させ、その活性を失わせます。すなわち、生茶の分解を抑えて、葉の成分をなるべくそのまま保った状態で製茶しています。すなわち発酵させていないので、緑茶は非(無)発酵茶とよばれます。ちなみに、世界全体の生産は紅茶が圧倒的に多く、ほとんど緑茶のみを生産している日本は特異な存在です。

Image001_2  Image003 Image005

   

左から緑茶・紅茶・ウーロン茶です。紅茶はウーロン茶に比べてに葉が小さいですね。茶の木自体、紅茶に適したインド系のアッサム種は、中国種との違いが茶葉の形状からも分かります。

一方、紅茶は熱処理をかけずに、酵素の働きを温存させて生葉を十分に発酵させています。よって、発酵茶とよばれ、発酵の過程で新たな香り成分が生まれてきます。ウーロン茶は発酵途中で熱処理を加えて発酵を中止させたもので、中間状態の半発酵茶とよばれます。プアール茶など、独特の花様の香りがする茶がありますが、発酵の過程で花の香りの成分が生まれるもので、花を混ぜた(加えた)ものではありません。これは、酵素による発酵を終えた後に、コウジ菌を加えて新たに発酵を再開させたもので、後発酵茶とも呼ばれています。微生物に発酵させて、花の香りが生まれるのは大変不思議ですね。香り付け(付香)のために混ぜものをする加工方法もあります。花茶とよばれる、ジャスミン茶や桂花茶などがこれです。この場合、茶葉自体は低品質のものを使うことが多いようです。

飲茶のルーツとされる中国では、古来より多様な加工(発酵)方法が存在します。茶を色で大別する方法では、緑・白・黄・青・黒・紅とカラフルで、奥深さがうかがえます。乱暴な言い方をすると、中国茶=ウーロン茶と捉えてしまいがちですが、茶木の品種と発酵方法の組み合わせで、数百ともいわれる茶の種類があるようです。以前、私は神戸で中国茶の専門店に入った時、その種類の多さと価格の幅の広さに驚いたことがあります。中国では、日本の蒸すのとは異なり釜入り加熱で発酵を止めるのが主流のようでが、日本と同様に緑茶での消費が一番多いようです。また、珍しいものでは、磚茶(たんちゃ) とよばれるものがあります。これは茶葉を湿らせてから押し固め、磚の文字の意味のごとくカワラのように圧縮整形して運搬に適したものにしています。これらは、中国の辺境部のチベットやモンゴル、ロシア方面に送られ、野菜不足から欠乏しがちなビタミン類の供給源としてそこに暮らす人々には無くてはならぬものになっています。辺境部からは優良な馬が産物として茶と交換され、その交易路は「茶馬古道」としてドキュメンタリー番組としても紹介されました。ご覧になった方もいらっしゃるでしょう。

茶は、「煮る」、「淹(だ)す(湯に漬けて溶かしだす)」などで、飲用する方法が一般的です。茶に加える添加物としては、塩、砂糖、乳製品(バター、ミルク)が用いられることがあります。さらに、穀物を加える場合もあります。日本では何も加えないで、淹(だ)したままでいただくことが一般的ですが、お茶に小粒の「アラレ」を加えたりすることがあります。また、茶粥や茶漬けも考えようによっては茶の楽しみ方の一つの形態でしょうか。これは言い過ぎのように思えますが。

近年、お茶の効用が多面的に明らかにされてきました。ガンに代表される成人病の原因となる活性酸素を除去する効果、高血圧や高コレステロールを改善する効果など、その他にも優れた生理作用が報告されています。また、その香りの癒し効果や消臭効果なども確認されており、飲み物以外に様々な商品が出ています。スウィーツやソバなど様々な食品に加えられたりしていますね。また、芳香や消臭の効果を期待して、まくら、シーツ、ハンカチ、石鹸、シャンプーなどに加えられて、肌身に迫る勢いです。ちなみに、飲料品の中で、茶類は一番の消費を誇っています。

さて、私たちが開発したニオイセンサは水晶振動子というものをベースとしたものです。ガラスと同じ成分でできている水晶の薄い円板は電圧をかけると一定の頻度で振動し、そのペースは振動数という量で表されます。この振動数は水晶の質量の変化により比例的に変化します。この振動数の変化量を測ることで、水晶にかかる質量の変化を知り、微小な質量を量ることができます。私たちの使っているものでは、1Hz(1ヘルツ、1回/秒)の振動数変化が、1ng(1ナノグラム, 10-9g)の質量変化に相当します。この水晶円板そのままでは、ガス分子を吸着する力が極めて弱いので、強力なガス吸着力を有するセンサ膜を表面に薄くコーティングしています。プラズマとよばれる放電ガスを生体材料に作用させることで炭化させて強力なガス感応膜の作製法を独自に開発しました。この感応膜のおかげで、人でも分からないような微弱なニオイを測ることができるようになりました。性質の異なった8種類の感応膜を別々の水晶にコーティングしたものを集めて、測定容器内にセットしてセンサ軍団をつくります。ここにニオイを送り込んで測定します。

Image007 Image009

  

左は水晶円板(直径約1cm)に感応膜をコーティングした2種類のニオイセンサ(直径約1cm,中央部の金色の部分は金電極)、右は8種類の異なったセンサを組み込んだセンサセットです。

8種類の全てのセンサからの応答をパソコンで統計処理してニオイの地図を作ります。8種類の全てのセンサからの情報を統合して1つのニオイを地図上の1点に示すようにします。複数のセンサの力を合わせてニオイ地図を作り、この地図を読み解くことでニオイの特性を理解したり、ニオイを分類したりできるようになります。

少し具体的にその方法をお話します。センサからの信号波形を強度や幅を用いて数値化し、ニオイ情報を数字に変換します。この操作はセンサ応答からの特徴量の抽出とよばれ、数値化することで数学的なデータ処理が可能になります。一つのセンサ波形を表す特徴量は複数(n個)あることもあり、センサが8種類でセンサセットが構成されているので、8n個の数値で一つのニオイを表現することになります。難しい表現をすると、8n次元の空間の中の一点として、ある測定したニオイがプロットされることになります。3次元空間より次元が大きいと、私たちはそれを見ても認識できません。そこで、高次元空間のプロットを2次元平面へと次元を下げて表す処理をパソコンで行います。これは2次元平面への投影とみなすことができ、主成分分析とよばれる処理方法で実現可能です。次元を下げて(集約して)投影させるため、全ての情報が映し出されるわけではありません。一部の情報は失われてしまします。この情報の損失を最小限に止めることは、投影プロットが最大限にバラツイテいる二次元平面を探し出すことに相当します。バラツキが最大になる平面が示されるので、我々には各プロット間の区別が容易になります。すなわち、この二次元平面はニオイを区別しやすいようにした地図とみなすことができるのです。この地図をもとに、ニオイ間の相似性を調べたり、未知のニオイをこの地図上にマップして、どのニオイに近いのかを判断することも可能になります。私たちの開発した装置で作成した茶葉のニオイ地図を下に示します。

Fig_2

センサからの情報に基づいて作成した茶葉のニオイ地図です。人の嗅覚アンケートではグリーン調が上に行くほど強い印象となる傾向がありました。

y軸は情報量が最多の投影軸で、全情報量の75%を含んでおり、第一主成分とよばれます。また、y軸と直交して2次元マップを構成するx軸は第二主成分とよばれ、この場合は情報量15%でした。主成分分析から得られた縦軸や横軸に関して単位はありません。地形図ではキロメートルなどの単位はありますが、この場合に類似性を距離感でとらえ下さい。また、ここでは同一サンプルを3回測定したものの重心点の1点で、そのサンプルの位置を表しています。点線で囲んだ楕円は、サンプルが分布する領域を示しています。

この地図からまず言えることは、半発酵茶のウーロン茶や発酵茶の紅茶(リプトン)と、非発酵茶の緑茶群は領域分けができています。人の嗅覚では紅茶と緑茶のほうが近いのですが、このセンサによるニオイ地図では、紅茶と近い場所に位置する緑茶が複数種認められます。

情報量の多い第一主成分で、緑茶グループを見てみます。「べにふうき」は花の香りの印象もある発酵茶用に開発された品種で、紅茶と近い場所に位置します。逆に、y軸で上のほうにある「藤枝かおり」や「香駿(こうしゅん」は、さわやかな青葉の香り(グリーン調)が強い品種です。研究室の学生に茶葉を嗅いでもらってアンケート調査をしました。すると、グリーン調の印象がy軸で上に行くほど強く、逆に下に行くほどフローラル調が強い結果となりました。このように、ニオイセンサで作成したマップからは、人の嗅覚を反映した傾向が得られており、センサの有効性を確認できました。ウーロン茶は紅茶より、y軸の上に位置しており、グリーン調が強いことも示されました。

これらの結果は、人の嗅覚と関連づけて考察をくわえたものであり、今後検出のメカニズムを分子レベルで解明していく必要があります。また、茶葉の劣化をニオイの変化で把握する研究も、このニオイセンサを用いて取り組んでいます。室内で茶葉を放置した場合、冬は夏に比べて劣化の速度が半分程度という結果が得られています。ニオイの情報は分子の情報に還元できますが、分子の種類とその数の組み合わせで定められますので、10の何乗というものすごい量を考えなくてはなりません。それを各成分に分けないで、総合的に「○○のニオイ」として認識する動物(人を含めて)の嗅覚はスゴイと、この研究を通して常々感心しています。

pukuta でした。

2010年6月11日 (金)

今年のAO入試日程(コンピュータサイエンス学部)

今年のAO入試が決まりました。

■8月AO入試
・日程
出願期間:8月2日(月)~8月9日(月)(消印有効)
試験日:8月29日(日)
合格発表日:9月17日(金)

■10月AO入試
・日程
出願期間:9月21日(火)~9月28日(火)(消印有効)
試験日:10月24日(日)
合格発表日:10月29日(水)

詳細は入試情報ページに順次掲載されます。
http://www.teu.ac.jp/entrance/index.html

募集要項は下記よりご請求ください。
https://www.teu.ac.jp/siryou/gakubu/

2010年6月11日 (金)

« 2010年5月 | トップページ | 2010年7月 »

 
  • コンピュータサイエンス学部の情報はこちら
  • 入試情報はこちら
  • 資料請求はこちら(大学案内、募集要項等)
カレンダー
2025年6月
日 月 火 水 木 金 土
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30          

カテゴリー

  • CS学部のイベント
  • その他
  • オープンキャンパス情報
  • プロジェクト実習
  • 人工知能
  • 卒業生の活躍
  • 学生の学会発表
  • 学生の就職活動
  • 学生活躍編
  • 戦略的教育プログラム
  • 教員の執筆情報
  • 映像紹介
  • 松下的コンピュータゲームの世界
  • 研究室の研究紹介
  • 研究編
  • 講義紹介

最近の記事

  • 6月15日にオープンキャンパスを開催します
  • 国際会議IMCOM 2025で論文発表を行いました
  • タイのバンコクで開催された国際会議ICTIS2025で論文発表しました
  • 「たまてく」AR謎解きツアーを行いました!
  • 学部3年生と4年生がコンピュータセキュリティ研究会で発表
  • 情報処理学会 第202回DPS研究発表会(2025年3月)で発表をしました
  • 3月23日にオープンキャンパスを開催します
  • 大学コンソーシアム八王子学生発表会でデモンストレーションをしました
  • 国際会議3PGCIC-2024(イタリア)で論文発表をしました
  • 第32回マルチメディア通信と分散処理ワークショップで論文発表を行いました
  • 東京工科大学の情報はこちら
RSSを表示する