「タンジブル・ソフトウェア教育の研究」プロジェクトの紹介
CS学部助教の高嶋です.
今回は、学内で進められている研究プロジェクトと、そこで開発されたシステムのひとつを紹介します.
CS学部には、将来システムエンジニアになることを志す学生が多いようです.このブログをご覧になっている高校生の皆さんの中にも、ゲームソフトやネットワークサービスなど、システム開発を経験してみたいと考えているかたがいらっしゃるのではないでしょうか?
システム開発と聞くと、キーボードを叩いてプログラムを作ることを想像してしまいがちですが、実際にはプログラミングはシステム開発のほんの一部で、要求獲得、要件定義、設計、製造・試験、保守・運用など、様々な工程を経てシステムが出来上がります.システムエンジニアとして産業界から求められている人材は、このような工程を実践的かつ体系的に学んだ学生なのだそうです.特に、開発プロジェクトをとりまとめるプロジェクトマネージャー(PM)を担うことができる人材を、大学で育成してほしいという要望があがっています.
このような要望に応えるべく、CS学部の中村太一教授を中心に「タンジブル・ソフトウェア教育の研究」プロジェクト(文部科学省 平成19年度私立大学学術研究高度化推進事業採択案件)が進められています.
研究の取り組みのひとつとして、プロジェクトベースドラーニング(Project Based Learning,PBL)という実務体験型の講義が行われています.この講義では、学習者がシステム開発の仮想プロジェクトの登場人物を演じる「ロールプレイ演習」を取り入れており、疑似的にシステム開発の実務を経験することができます.さらに演習をオンラインで行うことができるシステムPROMASTER(Project Management Skills Training Environment)を利用することで、効率よく演習に取り組むことができます.これは中村研究室の学生チーム(学部4年生6名+修士2年生1名)が開発したものです.
PROMASTERの開発・利用には3つの側面があります.
1. 教材としてのシステム:学習者が、システム開発やプロジェクトマネジメントに必要となる知識(コスト見積もりや、日程調整、他者とのコミュニケーションなど)を実務を通して学びます.
2. 学習状況把握のためのシステム:システム利用時の行動履歴データをもとに、個々の学生がどのようにロールプレイ演習に取り組んでいるかを教員が把握し、個人に特化した教育方法や教材の作成にいかします.
3. 開発題材としてのシステム:学生チームが1年を通してシステム開発の全工程を経験します.
特に「開発題材としてのシステム」については、中村研究室で、企業における開発と同様のプロセスを経て、システム開発がおこなわれている点が特徴的です.1年をかけて要求分析・外部設計・内部設計・プログラミング・テスト・運用を行うため、チームで作成する書類の量は、電話帳数冊分に及びます.毎朝10時からのミーティングで昨日の作業内容と本日の予定を確認したり、書類作成後にはチームでレビュ(内容の確認)をしたり、作業の週間報告書を書いたり、ガントチャートでスケジュールを管理したり…まさに企業のようです.QCD、WBS、RFP、EVM、といったシステム開発に関する用語も、普段の会話で普通に話されています.
個人的には(学生またはスタッフとして)5つの大学に在籍したのですが、これほどまでに徹底して、企業と同様のやりかたでシステムを開発している研究室は中村研究室が初めてでした.自分が学生のころは、書類など作らず、行き当たりばったりでプログラムを組んで、不具合があれば修正して、ということを繰り返していました.産業界が求める人材ではなかったようですね…
東京工科大学は、企業出身の教員が多いので、このようなシステム開発プロセスに触れる機会も多いかと思います.オープンキャンパス等でチェックしてみてください.
なお、今回紹介した「タンジブル・ソフトウェア教育の研究」プロジェクトは、情報処理学会主催「情報システム教育コンテスト(ISECON2009)」で技術賞を受賞いたしました.
プロジェクトの詳細については中村教授のインタビュー記事をご覧ください.
2010年12月 2日 (木)