コンピュータサイエンス学部 尾崎弘之
2012年は「日本における電子書籍元年」と言われています。8月に楽天Koboが、10月にはアマゾン・キンドルが電子書籍コンテンツの配信サービスを始めました。
電子書籍は従来からある紙の書籍と比較して、多くの点で異なっています。何と言っても、出版するコストが劇的に下がります。印刷のための大量の紙、高価な印刷機械、本を配送するトラック、駅前の一等地にある書店など大掛かりな「出版システム」が不要になり、これらで浮いたコストによって本の値段を安くすることができます。我々「作家」にとっては印税が今までより高くなるはずです(笑)。
今までは高価な出版システムが必要だったので、出版社がどのような本を出すかを決めていましたが、これからは個人の作家が出版の内容を決めることができます。インターネットの出現によって、それまではテレビや新聞などのマスコミしか不特定多数の人に意見発信ができなかったのが、誰でも簡単に自分の意見を知ってもらえるようになったことと似ています。また、今まで原稿を完成させて書店に並ぶまでに最低2ヶ月を要していたのが、電子だと1~2週間でアップできます。
ただ、電子書籍の出現によって不都合を被る人達もいます。印刷会社、本の流通会社、書店など、今まで出版システムを作ってきた企業が中心です。ただ、書籍の電子化の流れはかなり前から始まっていたので、自分達の仕事がなくなることを嘆いてばかりでは未来がありません。大日本印刷という企業は、デジタル用の高度な印刷技術を開発し、美術品などを「三次元」で保存するなどユニークな事業を始めています。電子書籍の出現前からインターネットの書籍販売によって、書店の仕事は減っていました。米国のバーンズ&ノーブルズという書店チェーンは、この流れを見越して、電子書籍リーダー端末やコンテンツを店頭で積極的に展示しています。
電子書籍の未来はバラ色なのでしょうか?「そうではない」という意見も少なくありません。我々が何百年も親しんできた「紙の本を読む」「紙をめくる」「書棚に本を置く」という習慣が一足飛びに電子リーダーに置き換わるはずがないという意見です。おそらく、それは正しいでしょう。紙の本がすぐ完全に淘汰されるとは考えにくいと私も思います。ただ、十数年前にアマゾンが初めて紙書籍のインターネット販売を始めた時、「インターネットで本など売れるはずがない。本は書店で立ち読みをしなければ誰も買わないものだ。」という意見が強かったことを思い出さなければなりません。このような意見を発した人達は、インターネットで本を買うという習慣が今のように根付くとは思いもしなかったのでしょう。
ただ、現状の電子書籍サービスは紙と比べて十分とは言えません。何と言っても、新しい書籍のラインナップが不十分です。これは、著作権を持つ出版システムの会社群が新しいコンテンツの提供に積極的でないことが大きいですが、間違いなく改善されるでしょう。
「今、良い本を出したらベストセラーになりますよ。」こういう現状を見て、複数の人達が私に電子出版を勧めてくれました。「物事の本質はトライしなければ分からない」が信条の私です。既に紙書籍として出している二冊の本を出版社の許可を取って、電子化しました。「社会変革期の事業戦略:グリーンラッシュ」と「君は本当に出世したくないのか?」(以下、「出世」)の二冊です。
このうち、「出世」がアマゾンの電子書籍総合ランキング第4位のベストセラーになりました(4月21日現在)。紙の本と違って、出せばすぐに読者の反応が見られることが電子の醍醐味です。目指せ、ランキング1位!!!(笑)
「出世」はコンピュータサイエンス学部の私の講義(『ベンチャービジネス論』)の準教科書指定です。4月25日(木)までアマゾンのキャンペーンで、定価の半額の450円(紙書籍の71%オフ)でダウンロードできます。キンドル端末がなくても、iPhoneやiPadがあればダウンロードすることが出来ます。
電子書籍はこれから、知的コンテンツの伝え方をどのように変えるのでしょうか?目が離せません。
「出世」購入サイト
http://www.amazon.co.jp/君は本当に出世したくないのか-To-honest-promoted-dont-ebook/dp/B00CAGQ76S/ref=zg_bs_2275256051_4