エレキギター演奏を工学の力でアップデートする「演奏工学」研究
こんにちは。私は、ギタリストの加茂フミヨシと申します。
これまで20年間以上音楽業界で仕事をしてきました。特にデジタルコンテンツ分野と、ギター演奏の分野で一貫して活動してまいりました。
現在は東京工科大学と同じキャンパスにある学校法人片柳学園の専門学校、日本工学院八王子専門学校ミュージックカレッジ ミュージックアーティスト科/音響芸術科の専任教員として音楽業界で活躍するアーティストやエンジニアの育成に従事しています。
同時に、社会人の院生として東京工科大学大学院 バイオ・情報メディア研究科 コンピュータサイエンス専攻 博士後期課程で松下宗一郎教授の指導を頂きながら日々研究活動を行っています。
どうして私がそのような活動をしているのか本日はお話させていただきたいと思います。
これまで様々な形で音楽活動をしたり、作品を発表してきましたが、音楽の世界はデジタル技術の到来で大きく姿を変えました。僕がこの世界に入りたいと思った時は、誰しもが「CDデビュー」という言葉を使ってました。今、CDデビューという言葉を使う人はいません。配信なども出てきていますが、音楽の世界は「その次」を模索しなければならない段階に来ていると2018年に確信しました。デジタル技術をベースとした「その次の音楽表現」とは一体何なのか、研究したい気持ちが沸いてきて、現在の仕事・活動は全て継続しながら、休日に大学院に通って研究することにしました。
2019年の4月からデジタルハリウッド大学大学院 デジタルコンテンツ研究科に特待生(特別奨学生)として入学しました。2021年3月、同大学院を首席で修了しDCM(デジタルコンテンツマネジメント)修士号を取得しました。修士課程では、デジタルコンテンツ分野の研究を行いましたが、博士課程に進学し、自分のより深い専門分野である「ギター演奏」を研究したいと考えました。
日本全国の大学院をくまなく探しましたが、エレキギター奏法に関する博士の研究を指導頂ける先生を見つけることができず途方に暮れていたところ、デジタルハリウッド大学大学院の先生が「東京工科大学にギターの有名な先生いるよ!」と教えてくれたのです。え???まさか同じ職場に??と思って、最初は信じられなかったのですが、僕は毎日研究棟Bという建物の11階で仕事をしているんですね。なんと松下宗一郎教授は研究棟Aの建物の11階にいたんですよ!
10年以上同じキャンパスの中にいたんですよ(笑)信じられませんでした。
面談を受けさせていただいたら、なんと松下先生は僕が執筆した教則本で練習をしてくださっていて、「え、加茂さんって八王子にいるんですか?!」みたいな話になり、一瞬で意気投合しました(笑)
僕としても、松下先生から是非とも学ばせていただきたいことがたくさんあり、2021年4月から松下先生の下で学ばせていただいております。こんな感じで通学しています(笑)
さて、いったい僕は何を研究しているのか?というと、工学博士の学位を目指しているのですが「演奏工学」という概念を確立していきたいと考えております。
音楽には「暗黙知」が多いとされているんですね。
<暗黙知の例>
- とにかく練習しましょう(とにかくとは?)
- スパッと弾きましょう(スパッと?)
- 脱力しましょう(どのくらい?)
- 著名な人はこう弾いている(指の長さが違うのですが・・・?)
- 昔の人は耳コピをしていた(今の人は?)
- 全身をしなやかに使って(しなやかとは?)
もちろん上記が悪いというわけではないんですけども、実際のところ上記は概念として難しいところもあり、プロでも自分がなぜできているのかということは本当のところはわかっていない領域もあったりするんです。
これらに対してサイエンスの観点から問いを立て、コンピュータの力を使い解決していく。まさに、コンピュータサイエンスと音楽が交錯することで、今まで暗黙知だったことが明らかになる瞬間を松下先生の指導の下、春から何度も体感してきました。
この写真は、毎週金曜日に行われている松下先生の「プロジェクト実習」の様子です。
僕が考案した「PickFeel」というデバイスを活用して、東京工科大学の大学3年生の皆さんが実験をしながらワイワイギターを弾いて研究をしています。これはSTEAMという新しい学び方なんですね。
エレキギターがうまくなるかもしれない、ってすごいワクワクがあるじゃないですか。そのモチベーションと共に、詳細なデータを研究することで、普通では決して得られない演奏上の秘密を得ることに成功しています。
10月には、初めての国際会議「IEEE GCCE2021」の舞台に登壇し、研究で得た知見を発表いたしました。自分の演奏がリアルタイムで可視化され、即時にフィードバックがもらえるんです!松下先生の超高度なテクノロジー技術と、僕の音楽現場で培った技術が交錯することで生まれた他には無い研究です。
https://www.youtube.com/watch?v=AtamUgbUrGo
同じく、情報処理学会 DPSWSで登壇させていただきました。
https://www.youtube.com/watch?v=nSGkdQ7R7WE
ギターのフルピッキング演奏時に、プロギタリストが「どのような触感を手に感じているか」をレッスン受講者に伝えたいとしても、今まで"それ"をレッスンする方法は存在しませんでした。これも暗黙知ですね。
しかし演奏とは、「どのように弾こうとしているのか?」ということこそが最も大切で、たまたまできた「その感覚」を忘れてしまうことは、上級者さえもしばしばあるものです。
今回発表したデバイスでは、ハプティクス技術を利用し、プロのピッキング時に、弦とピックがどのように衝突しているのか、またその感覚は個人毎に設定を変更して体感ができるようになっています。
失敗した時の感覚も掴めるようになってます。ただ触感だけを感じるのではなく、ビンテージアンプを鳴らした時に得られる高品位な音をモニターできるように作られています。
さらに、「自分で見た自分の右手」でしか得られない目線を、3DCGで再現し、視覚・聴覚・触覚を組み合わせたバーチャルリアリティの世界でギターの最も難しい技術「ピッキング 」の体得を目指したツール、それがこのデバイスです。実際に松下先生の授業で使い、大学生の皆さんの協力を得て一定の成果を挙げることができましたので論文とデモンストレーションにて発表をさせていただきました。
今回、優秀デモンストレーション賞をいただくことができたのですが、これは毎週一緒に研究をしてくれている工科大の大学3年生の皆さんのおかげだと思っています。大学生の皆さんは300分連続の授業なんですけども、毎回物凄い高いモチベーションで授業に臨んでくれていて、博士の研究は大変な部分もありますが、僕も大変勇気をいただいています。
進学先の大学を探しておられる高校生の皆さんには、東京工科大学コンピュータサイエンス学部にはエンタテインメントを研究できる場と、松下宗一郎先生という素晴らしい先生がいることを是非知っていただきたいと思います。松下先生は天才すぎて地球人じゃないような気がしています(笑)
特に音楽やゲーム、アニメが好きな皆さんは、ご自身の好きなことを最先端テクノロジーと掛け合わせてアップデートさせることができる先生が松下先生だと思います!
僕自身の今後の目標としては、アーティストを指導・育成・プロデュースする立場として新時代のデジタル技術を背景としたEdTechとSTEAMを研究した先に「演奏工学」という概念を確立させ博士の学位を取得し、未来の音楽シーンを目指す若者に「NEXT」を伝えられるように頑張っていきたいと思います。
2021年11月15日 (月)