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2022年5月

2022年5月31日 (火)

「スマホでグリッド」プロジェクト ~第1話 創世記~

2022年5月31日 (火)

はじめまして、CS学部4年の小谷晏経と申します。

今年3月に開催された情報処理学会第84回全国大会にて発表し、学生奨励賞を受賞しました。発表内容は伊藤忠テクノソリューションズ株式会社(CTC)と大学の共同研究プロジェクト「スマホでグリッド」による研究成果です。これは大規模な計算を文字通り多数のスマートフォンで分散して処理するシステムを開発するものです。

なお、「スマホでグリッド」のことを我々の業界では「SDGs (Sumaho De Grid)」と呼びます。ここでsは何かとツッコまないのがお約束です。

このブログではこれから3回にわたり

  • プロジェクトの経緯
  • 研究内容
  • 学会発表

について、共同研究の過程で私の考えたことを織り交ぜながら詳細にお話ししようと思います。今回はプロジェクトの経緯についてです。少しでも共同研究の雰囲気が伝わればと思います。話が積もりますが、どうぞお茶でも飲みながらお付き合いください。

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▲ミーティングの様子

2021年5月 プロジェクト発足

突然ですが、企業では情報漏洩対策などの理由で従業員に作業用のスマホやタブレットを貸与することがあります。大企業ではこれが数千〜数万台にもなります。そのために相応のコストを割くわけですが、実際のところ夜間や休日には使われません。これらをコンピューティングに活用することでIT資産としての利用効率を高められ、ついでに近年需要の増すAI・シミュレーションに必要な大規模計算の効率化にも貢献し、そうした研究に用いられる既存のクラウドコンピューティングサービスよりも安価にでき、それを利用してビジネスにできるのではないかと考えたのがCTC金融ビジネス企画部の植月修さんです。一石二鳥どころか三鳥か四鳥か、凄まじいビジネスセンスです。

一方、多数のスマートフォンで分散処理を行うアイディアは多くの人が考えるものです(たとえばSETI@homeなど)。本学CS学部の石畑宏明教授もその一人で、本学恒例のコラム「大学の学びはこんなに面白い!」でも紹介されていました(ちょうど10年前!)。

ここに目を付けた植月さんが石畑先生に打診し、さらに本学で推進する実学教育の意味も込め、石畑先生が3年次前期の必修科目「キャリア設計I」を通して参加する学生を募集してくださいました。

同時にビジネスにする上ではシステムの実用性を示すことも重要です。そのために大規模計算の例として、CS学部瀬之口潤輔教授が開発する株価予測シミュレーターを使うことになりました。

6月 プロジェクト始動

参加する学生数として当初4人程度を想定していたところ、実際には10人くらい集まったそうです。そこで開発経験と打ち合わせ可能な時間についてアンケートを取り、私を含め6人が選抜されました。いわゆるエントリーシートのようなものですが、実際には「この時間空いてるひと〰!あ、じゃあこの人とこの人ね!」とか言って選定したとかしていないとか。ともあれ全員プログラミング能力も意欲も極めて高い人達です。

CTCでは普段の業務と別にビジネスアイディアを試す社内企画があるそうで、スマホでグリッドはその1つでした。同時期にもう1つ「メンタルキャンバス」という、見ているだけではわからない子どもの心の状態をデータから分析するシステムを作るプロジェクトもありました。そこで選抜された6人のうち4人が前者、2人が後者に参加することになったというわけです。(※スマホでグリッドの1名はその後都合により離脱し、メンタルキャンバスの1名は途中で新しい人と交代しました。)

6月30日、第1回ミーティング(Zoom)をもってキックオフとなりました。

7月~8月 プロジェクト初期

研究の流れとしては、学生が空いている時間に作業を行い、毎週月曜日にメンバーが集まりCTCのSE(システムエンジニア)である佐原潤哉さんを進行役にZoomでミーティングを1時間ほど行います。

学生は実務経験などなく、仕様や実装方法の策定といった上流工程から行うので、初めのうちは進め方が手探り状態でてんやわんやしていました(開発の様々な工程を経験できる意味では非常に良い経験です)。モチベーションは異様に高いので、学生たちが「こんなものありましたよ~!」と口々に情報を持ち込んだり唐突に株価予測プログラムを完全解析したり異様に凝った報告資料を作ったりと、正直工程や作業計画はあまり意識せず暴走していました(それは自分だけ?)。(ちなみにこの凝った資料のおかげで学会発表の画像や内容を考える手間が省けたのはまた別の話。)

フリーダムなようでいて、あるいはフリーダムゆえなのか、7月の終わりにはネットワークを介して分散処理を行うプログラムができ、8月中旬にはウェブアプリとして実装し、ほぼ現在の形が完成しました。

また佐原さんの進行がこれまた非常にうまいのです。次第にミーティングの進め方も定まっていき、順次作業報告→まとめ→次の作業計画という流れが出来上がっていきました。何より、個々の得意分野(AI、ウェブ開発、AWS、プログラミングなど)に合わせてうまいこと学生に均等にタスクを割り当ててくれます。本職のSEの凄さを実感しました。こういったところは卒業研究などにはない共同研究の醍醐味ですね。

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▲異様に凝った報告資料

9月~11月 プレスリリース・改良・テスト

CTCでは10月初めに中間報告があり、そのために簡単なデモンストレーション動画を作りました。また共同研究契約を締結したという旨のプレスリリースが出ました。その後いくつかの新聞社が取り上げていき、規模が増してきたことを感じました(別に何も変わりませんが)。

開発作業としてはバグ修正や改良を加えながら、実用化を見据えて作ったシステムを AWS (Amazon Web Services) のクラウドサービスを使うように移植していました。CS学部では2年次にプロジェクト演習という必修科目の一部で Microsoft Azure を使ってウェブサービスを作るので、結構とっつきやすく感じます。とはいえ、こうしたクラウドサービスにはコンピューティング以外にもデータベースやストレージ、VPC、アカウント管理など様々なサービスがあり、実務ではこれらを連携させるための体系的な理解が必要となります。個人的に非常に苦戦していましたが(今もですが)、プロジェクトメンバーの助けも借りながらタスクを一つ一つ着実に攻略し、経験値が上がっているのを実感しています。

一方でシステムのテストも行いました。並列処理をする以上、その効率は大きなテーマです。システム全体の計算能力を測れば既存のクラウドコンピューティングサービスと比較することで経済価値を試算し、それらと同様にコンピューティングサービスとして提供できます。結果は思っていた以上に良く、スマホの計算能力を活かせていました。達成感を感じる瞬間です。

12月~2022年3月 学会発表

石畑先生から情報処理学会の全国大会を紹介され、申込み締切の延長にも助けられ、発表することにしました。とはいえメンバー3人とも意欲はあるのですが、論文を書いたこともなければ学会に参加したこともありません。当時はこれから何が必要なのか、どんな困難が待っているのか見当もつきませんでしたが、まあいずれ通る道だろうし普通はできないことだろうと考え、また「どうにかなるでしょう」という持ち前(?)の楽観でやっちゃったのでした☆

学会発表の詳しい様子は次次回に預けますが、予稿を書いて発表して、なんやかんやあって学生奨励賞をいただきました。

4月~

最近は商用化に向けてこのシステムをバックグラウンドにしたサービスの開発などを行っています。学会発表時、他の方の発表で野球の戦略提案を行うAIというものがありました。これとスマホでグリッドシステムを組み合わせることで、一般の計算参加者に報酬を還元する仕組みを作れないかというアイディアです。植月さんが提案し、これを具体的に開発する手順や方法を整理したり、プロトタイプを作成したりして現在に至ります。このプロトタイピングは「見た目だけ実際のウェブサイトっぽく動くものを作る」というものですが、まさにCS学部1年次の必修科目「価値創造演習」での経験が活きます。まさしく学部で学んだことの集大成という感じです。

ちなみにこの共同研究、本来は12月末までの契約だったのですが、3月末までに延長された後、さらに5月末までに延びたという経緯があります。まだ延びちゃったりして。戦いはこれからも続く・・・。

おわりに

このような産学連携の共同研究はインターンシップに近いところがあり、就活に有利なのはもちろんですが、研究でもあるので大学院進学を目指す場合も良い経験になると思います。実際、参加メンバー5人のうち2人はCTCに就職、3人は大学院進学の予定です。

うまくいけば学会発表もできて賞も貰えます。そんなに簡単じゃないって?でも考えてみてください。大人数で研究する分卒業研究よりクオリティは高くなると思いませんか?あとはノリと勢いでなんとかするのです。

また、今回のプロジェクトは卒業研究の研究室に配属される前の3年次前期から始まりました。そして参加メンバーは全員、卒業研究配属先は石畑研究室でなければ共通の研究室でもありません。私は並列処理とはだいぶ離れた認知科学系の菊池研究室です(ここでしれっと宣伝を行う)。脳波を計ったりして人間の脳を数理的にモデリングしています。要するに、自分の専門分野でなくても実績を積めるのです。そもそもコンピュータサイエンスはあらゆる分野が深く関わり合っています。並列処理を理解してこそ人工知能の性能を向上させられるし、並列処理にはオペレーティングシステムやネットワークの知識も必要です。さらに脳の神経回路もネットワークの一種であり、この脳の構造が今日の人工知能・深層学習技術の中核になります。専門分野だけでなく周辺の他分野を理解してこそ、我々は真のコンピュータサイエンティストと言えるのではないでしょうか。知りませんけど。

東京工科大学はこうした実学教育に非常に力を入れており、早期に実績を積む機会が多くあります。あと共同研究では(大抵)研究アルバイト代も貰えます💰学生はぜひ積極的に活用しましょう。

・・・と、ここで今回は一旦筆を置かせていただきます。次回は研究内容について(企業秘密に抵触しない範囲で)詳しくお話しします。よろしくお願いします。

2022年5月31日 (火)

2022年5月28日 (土)

6月12日にオープンキャンパスを開催します

2022年5月28日 (土)

皆さん、こんにちは!2022年6月12日開催のオープンキャンパスについてお知らせします。

オープンキャンパスでは、コンピュータサイエンス学部の研究室の様子や特徴的な研究内容をご紹介します。研究室の先生や学生から分かりやすく活動を説明いたします。

人工知能専攻から、コンピュータビジョン(青木輝勝・佐々木亮平)研究室、感性・言語コンピューティング(岩下志乃)研究室、ブレインコンピューティング(菊池眞之)研究室、複雑系データサイエンス(瀬之口潤輔)研究室、CSエンターテイメント(松下宗一郎)研究室を公開します。

先進情報専攻から、ネットワークコンピューティング(金光永煥)研究室、ビジネスシステム(竹田昌弘)研究室、シミュレーション技術・数値計算手法(山元進)研究室を公開します。

また、入試概要説明会、キャンパスツアー、学生相談なども予定しております。

  • オープンキャンパスの詳しい情報はこちらをご覧ください。https://jyuken.teu.ac.jp/jyuken/index.html
  • 申込フォームはこちらです。https://www.teu.ac.jp/entrance/open/reception/index.html

八王子キャンパスやコンピュータサイエンス学部の様子を見て体験する絶好のチャンスです。東京工科大の学生・スタッフ一同、皆さんのお越しをお待ちしています。是非ご参加ください。お会いできるのを楽しみにしております。

2022年5月28日 (土)

2022年5月10日 (火)

情報処理学会 全国大会にて学生奨励賞を受賞しました

2022年5月10日 (火)

こんにちは、大学院コンピュータサイエンス専攻博士前期(修士)課程を2022年3月に修了した張浩鋭と申します。

この3月に開催されました情報処理学会 第84回全国大会にて発表を行い、学生奨励賞を受賞出来ました。そこで、受賞に至るまでの道のりを簡単にご紹介いたします。

私の研究テーマは趣味でもあるボードゲームに着目し、新しい技術を使って今まだにない斬新なボードゲーム用のインターフェースを開発するというものです。具体的にはボードゲームのコマの代わりとして使用可能なLED PoV回転ディスプレイの設計・試作と評価を行いました。PoVとはPersistence-of-Vision Displayの頭文字で、LEDが高密度に配置されたバーを高速で回転させ、点滅のタイミングや色を制御することによって、何もない空間にあたかも空中に浮いた絵を表示させるディスプレイの一種です。私が初めてPoVを見た時にとても感動し、この技術を使ってボードゲームにイノベーションを起こしたい!と強く思いました。自分の好きなキャラクターをあたかも目の前に立っているかのように3D化してゲームのコマとして使えたら凄く楽しいだろうなと思いました。私の研究ではPoVに無線給電技術を取り入れることで電池不要で軽く、そして自由自在に動かすことが出来るまったく新しい電池レスPoVディスプレイを実現しました。この電池レスPoVディスプレイは制御でよく使われているM5StickCというマイコンを使用し、そこに回転センサやLEDを接続して制御しています。M5StickCには各種センサやWiFi、 Bluetoothとディスプレが内蔵され、それ単体が一種の超小型スマートフォンとも言えるマイコンです。回転センサーの計測値をM5StickCで読み取り、その値をC言語に近いArduino言語で作成したプログラムが読み取ることでLEDの色や点滅の動作を決定し、LEDに制御信号を送っています。

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もちろん研究を進める過程ではさまざまな困難がありました。PoVディスプレイを設計するにあたって、無線給電に起因する超低電力という要件を満たすためにあらゆる部分を小型化、省電力化する必要があります。そこでハードウェア設計にはCAD、そして試作製造には3Dプリンターを用いてゼロから開発を行いました。設計と試作後に動かして要求状況を満たさない部品や機構は都度設計をやり直し、作り直す必要がありました。何度も何度も細かい作業を繰り返し、失敗を乗り越えるたびに成功に一歩ずつ近づいて行きました。困難にぶつかった時には指導教員の服部教授に相談して指導を仰ぐことで、無事に最終設計を完成させることができました。私が設計、開発した電池レスPoVディスプレイは、安定動作と高解像表示の双方を実現しています。この装置のユースケースをデモするため、シンプルで楽しいゲームもデザインしました。

提案している新しいPoVディスプレイのボードゲーム以外の応用可能性を評価するため、2021年10月13日~15日に開催された第4回 医療と介護の総合展メディカルジャパン 東京に参加し、展示と説明を行いました。展示会では共同開発を進めている企業と一緒にPOVディスプレイのデモを行いました。この展示会は医療関連技術を中心にロボット、AI、インターネットサービスなど役立つ多くの技術が展示され、多くのテック系企業が参加、自社開発技術製品を展示していました。展示会には15,000人以上が来場し、私たちの展示ブースでは約150件のプレゼンテーションとデモを行いました。約50名のお客様に新しいPoVディスプレイに興味を持っていただけました。文字表示の特徴について説明、デモを行った後いくつかのコメントやフィードバックを得ることが出来ました。

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見学者からのフィードバックにより、提案したPoVディスプレイはボードゲーム以外にも応用できると考えています。今回の展示会は医療技術に焦点を当てているため、例えばAIボイスのように患者さんや高齢者の方に話しかけながら文字を表示することで医師が患者さんの状態を把握し、心地よい画像を表示することで患者さんの気分を良くし、他の技術製品との関連付けもしやすいのではないかと考えています。また、壁やエントランスにこのPoVディスプレイを設置し、情報を表示することも可能です。その特異な形や特徴から通常のLEDディスプレイよりも注目を集めることができると感じました。この新しいディスプレイを用いてスノードームのようものが出来たらとても楽しいと思います。この技術を発展させて販売可能な商品が出来ればとても嬉しいです。

そして、2022年3月に情報処理学会 第84回全国大会において「Transmissive Spherical Rotating LED POV Display with Wireless Power Supply for Board Games」という題目で無線給電とPoVディスプレイを組み合わせた修士論文に関する研究成果を発表し、学生奨励賞を受賞することが出来ました。

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コロナの関係もあって学会に参加することが初めてでした。当然、発表も初めの経験でしたが研究成果に自信を持っていたことや、英語で発表出来たこともあり、とてもリラックスして臨めました。聴講者や座長には私のPoVディスプレイに強く興味を持っていただき、小型であることや電池レスで高速回転とLEC制御の実現を評価してもらえたことが今回の受賞に繋がっていると思います。発表は英語でしたが、質疑は日本語で答えました。服部教授には質疑応答時にフォローいただき、大変心強かったです。学生奨励賞を受賞できたことは、私の人生において貴重な経験でとても嬉しく思っています。

2022年5月10日 (火)

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