情報処理学会 全国大会にて学生奨励賞を受賞しました
こんにちは、大学院コンピュータサイエンス専攻博士前期(修士)課程を2022年3月に修了した張浩鋭と申します。
この3月に開催されました情報処理学会 第84回全国大会にて発表を行い、学生奨励賞を受賞出来ました。そこで、受賞に至るまでの道のりを簡単にご紹介いたします。
私の研究テーマは趣味でもあるボードゲームに着目し、新しい技術を使って今まだにない斬新なボードゲーム用のインターフェースを開発するというものです。具体的にはボードゲームのコマの代わりとして使用可能なLED PoV回転ディスプレイの設計・試作と評価を行いました。PoVとはPersistence-of-Vision Displayの頭文字で、LEDが高密度に配置されたバーを高速で回転させ、点滅のタイミングや色を制御することによって、何もない空間にあたかも空中に浮いた絵を表示させるディスプレイの一種です。私が初めてPoVを見た時にとても感動し、この技術を使ってボードゲームにイノベーションを起こしたい!と強く思いました。自分の好きなキャラクターをあたかも目の前に立っているかのように3D化してゲームのコマとして使えたら凄く楽しいだろうなと思いました。私の研究ではPoVに無線給電技術を取り入れることで電池不要で軽く、そして自由自在に動かすことが出来るまったく新しい電池レスPoVディスプレイを実現しました。この電池レスPoVディスプレイは制御でよく使われているM5StickCというマイコンを使用し、そこに回転センサやLEDを接続して制御しています。M5StickCには各種センサやWiFi、 Bluetoothとディスプレが内蔵され、それ単体が一種の超小型スマートフォンとも言えるマイコンです。回転センサーの計測値をM5StickCで読み取り、その値をC言語に近いArduino言語で作成したプログラムが読み取ることでLEDの色や点滅の動作を決定し、LEDに制御信号を送っています。
もちろん研究を進める過程ではさまざまな困難がありました。PoVディスプレイを設計するにあたって、無線給電に起因する超低電力という要件を満たすためにあらゆる部分を小型化、省電力化する必要があります。そこでハードウェア設計にはCAD、そして試作製造には3Dプリンターを用いてゼロから開発を行いました。設計と試作後に動かして要求状況を満たさない部品や機構は都度設計をやり直し、作り直す必要がありました。何度も何度も細かい作業を繰り返し、失敗を乗り越えるたびに成功に一歩ずつ近づいて行きました。困難にぶつかった時には指導教員の服部教授に相談して指導を仰ぐことで、無事に最終設計を完成させることができました。私が設計、開発した電池レスPoVディスプレイは、安定動作と高解像表示の双方を実現しています。この装置のユースケースをデモするため、シンプルで楽しいゲームもデザインしました。
提案している新しいPoVディスプレイのボードゲーム以外の応用可能性を評価するため、2021年10月13日~15日に開催された第4回 医療と介護の総合展メディカルジャパン 東京に参加し、展示と説明を行いました。展示会では共同開発を進めている企業と一緒にPOVディスプレイのデモを行いました。この展示会は医療関連技術を中心にロボット、AI、インターネットサービスなど役立つ多くの技術が展示され、多くのテック系企業が参加、自社開発技術製品を展示していました。展示会には15,000人以上が来場し、私たちの展示ブースでは約150件のプレゼンテーションとデモを行いました。約50名のお客様に新しいPoVディスプレイに興味を持っていただけました。文字表示の特徴について説明、デモを行った後いくつかのコメントやフィードバックを得ることが出来ました。
見学者からのフィードバックにより、提案したPoVディスプレイはボードゲーム以外にも応用できると考えています。今回の展示会は医療技術に焦点を当てているため、例えばAIボイスのように患者さんや高齢者の方に話しかけながら文字を表示することで医師が患者さんの状態を把握し、心地よい画像を表示することで患者さんの気分を良くし、他の技術製品との関連付けもしやすいのではないかと考えています。また、壁やエントランスにこのPoVディスプレイを設置し、情報を表示することも可能です。その特異な形や特徴から通常のLEDディスプレイよりも注目を集めることができると感じました。この新しいディスプレイを用いてスノードームのようものが出来たらとても楽しいと思います。この技術を発展させて販売可能な商品が出来ればとても嬉しいです。
そして、2022年3月に情報処理学会 第84回全国大会において「Transmissive Spherical Rotating LED POV Display with Wireless Power Supply for Board Games」という題目で無線給電とPoVディスプレイを組み合わせた修士論文に関する研究成果を発表し、学生奨励賞を受賞することが出来ました。
コロナの関係もあって学会に参加することが初めてでした。当然、発表も初めの経験でしたが研究成果に自信を持っていたことや、英語で発表出来たこともあり、とてもリラックスして臨めました。聴講者や座長には私のPoVディスプレイに強く興味を持っていただき、小型であることや電池レスで高速回転とLEC制御の実現を評価してもらえたことが今回の受賞に繋がっていると思います。発表は英語でしたが、質疑は日本語で答えました。服部教授には質疑応答時にフォローいただき、大変心強かったです。学生奨励賞を受賞できたことは、私の人生において貴重な経験でとても嬉しく思っています。
2022年5月10日 (火)