ポルトガルで開催された国際会議で発表しました
2023年3月30日 (木)
クラウド・分散システム研究室の小山智之です.大学院コンピュータサイエンス専攻の修士2年です.2023年4月からはAWS Japanでサポートエンジニアとして働く予定です.
3月20日から3月22日までポルトガルで開催された国際会議 6th edition of Conference on Cloud and Internet of Things 2023 (CIoT’23) で口頭発表を行いました.CIoT’23はクラウドコンピューティングやIoTの分野を対象とした査読付きの国際会議です.参加者には博士課程(PhD)の学生や大学の教員,研究機関の研究者がいました.会場はポルトガルの私立大学であるLusófona Universityです.
口頭発表
発表のタイトルは,”Log message with JSON item count for root cause analysis in microservices” です.この発表では,マイクロサービスアーキテクチャで構成されたWebサービスで発生した障害の原因特定にかかる時間の削減を目的としています.マイクロサービスアーキテクチャは,Netflixをはじめとする先端企業のWebサービスで利用されているシステムの設計手法です.システム管理者はシステムで障害が発生すると,障害の原因特定と回復を行う必要があります.この原因特定には大量のデータを解析する必要があり時間がかかります.今回の発表では,通信内容とソフトウェアバグにより発生するシステム障害を対象に,障害の原因特定にかかる時間を短くするため,システム内の通信内容の違いを表現できる指標を提案しました.この指標をログメッセージに組み込むと,システム管理者は短い時間でシステムの障害の原因特定ができます.
当日の発表ではあまり緊張せずに落ち着いて話せました.これまで研究室のミーティングや外部発表を通して人前で説明する経験を重ねたおかげだと思います.質疑応答では質問の内容を聞き取れず不明確な回答をしていました.プレゼンテーション後に質問者と議論を行い質問へ適切な回答をしたり,実際のシステム運用の課題を教えていただいたりしました.
他の発表者は,博士課程(PhD)の学生が多く発表に慣れていました.他の発表から話すスピードやプレゼンテーションのやり方,スライドの構成を学べました.特にスライドの中にProblem formulation(問題の定式化)やCase study(ケーススタディ)がある発表は,発表内容が理解しやすく参考になりました.
初めての対面開催と海外渡航
これまでオンラインでの国際会議で発表する経験はありました.一方で現地開催(オフライン)での国際会議で発表する経験は初めてでした.現地開催ではオンラインでの開催に比べて参加者同士が交流する機会が多く刺激的でした.例えば,コーヒーブレイクでは他の参加者と研究テーマや出身国,所属組織について話ができました.これまで英語で雑談をする経験がなく,最初のうちは躊躇していました.慣れてくるにつれ自分から話かけて他の参加者と交流できるようになりました.英語を話すスキルは不足しているため,話したい内容が端的に表現できない苦労はありました.苦労を惜しまずコミュニケーションを取ろうと思う気持ちがあれば楽しめます.
実際にドイツの修士の学生とは,研究の評価実験で現実的なデータセットを用意する難しさについて意見が一致しました.評価実験では現実に近い環境やデータセットで,自らの提案した方式と既存研究の方式を比較することが望ましいです.なぜならそれらが現実に近いほど,自らの提案した方式が実社会で役立つこと(有用性)がアピールしやすいためです.一方でこうしたデータセットは大学で用意が難しいです.例えば,Amazonに代表されるショッピングサイトを想定する場合,利用者がどんな画面を遷移してどんな商品を購入したかが重要な情報になります.ショッピングサイトの運営事業者はこうした情報を含むデータセットを容易に入手できます.一方で大学ではショッピングサイトを運営していないため,データセットの用意が難しいです.ドイツの修士の学生もネットワークセキュリティの研究に取り組みながら現実的な攻撃のデータセットを用意する難しさを感じたそうです.たとえ母国語は互いに違えど,同じ研究の悩みをもつことが改めて分かりました.ちなみにこの学生は日本のワンピースが好きで漫画を収集しているそうです.こうした英語で専門的な分野の議論は刺激的で貴重な体験でした.左の図はコーヒーブレイクの様子です.日中は暖かく過ごしやすいですが夜は肌寒く寒暖差があります.右の図は参加者でのディナー(Gala Dinner)の様子です.海辺のレストランで交流しました.
これまでの人生で外国を訪れる経験がなく現地に到着するまでのあらゆる出来事が新鮮でした.その中でも飛行機の乗り継ぎは特に新鮮でした.今回の出張では,フライトの都合で成田国際空港(日本)から仁川国際空港(韓国)へ向かい一泊しました.その後,仁川国際空港からフランクフルト・アム・マイン国際空港(ドイツ)を経由してリスボン空港(ポルトガル)へ向かいました.それぞれの空港ではチェックインや入出国の審査,手荷物検査を受ける必要があります.また,搭乗前には空港のチェックインカウンタや搭乗ゲートの場所を調べる必要があります.こうした飛行機へ乗るために必要な一連の手順が国内線のフライトとは異なり新鮮でした.日本からポルトガルへ行く際には不慣れな一連の手順も,ポルトガルから日本へ帰る際には慣れて自分だけでも出来るようになりました.左の図はフランクフルト・アム・マイン国際空港です.チェックインカウンタが700以上あり広さに圧倒されました.右の図は飛行機の位置です.長い距離を移動するフライトであることを再確認しました.
ポルトガルの文化
空いた時間にリスボンの市内を観光しました.左の図はリスボンの街中の様子です.街全体が傾斜しておりレンガ造りの建物が並んでいます.ヨーロッパらしい景観です.右の図はベレンの塔(Belém Tower)の外観です.この建物は16世紀に建設されたそうです.
左の図は坂に停車中のトラムです.坂を移動するためにトラムがあります.落書きがされているのが少し残念です.右の図は高台から見たリスボンの夜景です.英語で論文を書いた苦労が報われたように感じた瞬間でした.
ポルトガル料理は美味しかったです.左の図は焼いた魚とポテトです.日本の焼き魚にイメージは近いです.右の図は焼いたチキンとズッキーニ,炊いたアワ(?)です.食事は基本の量が多くいつも満腹でした.日本人には親しみやすい食文化でした.
国際会議を終えて
博士課程の学生のモチベーションの高さに刺激を受けました.彼らは自分の研究テーマの説明や議論が積極的に行っていました.自分の研究テーマを他者に伝えてどうアピールするかを常に意識している様子が印象的でした.国際競争力にはこうした姿勢が重要ではないかと感じました.私もいずれは彼らのように英語で積極的に議論し,研究テーマを難なく英語で発表できるようになりたいです.国際会議への参加を通じて専門性を活かして国際的に活動する価値を認識しました.
英語でプレゼンテーションを行い,議論したりフィードバックをもらったりする経験の重要性を改めて感じました.これは自分が不足している点を認識できるだけでなく,新たな研究テーマのアイデアのヒントをもらえるためです.ただし,誰もが国際会議で発表できるわけではありません.発表するためには英語で論文を書いて査読を通す必要があります.英語で論文を執筆する過程は苦労の連続です.英語での論文執筆は日本語での論文執筆に比べて書き上げるために時間と労力がかかります.実際に私もCIoT’23に投稿する前に不再録(査読が通らない)を経験しました.その苦労を乗り越えなおかつ査読を通した人だけが,国際会議で自分のテーマを発表できます.たとえ,国際会議で発表までの過程で苦労が多くとも,その苦労を乗り越えるだけの価値があると思います.大学や大学院には国際会議で発表するために必要な能力を習得するための環境や機会が用意されています.在学生にはこの環境や機会を活かした対外的な成果の発表を勧めたいです.在学生の活躍を卒業生の1人として応援しています.
2023年3月30日 (木)